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2002年12月10日 栃木 M.Y様


 私にとっての日本最北の地、那須へ向けて

 月に1〜2度、直径10m、高さ7mのドーム型天井をした那須の別荘に行って過ごすのが何よりの楽しみと仰るYさん。すでに、BABY、PB-JR、STB-51と買い物をして下さっていましたが、今回PB-DADDYを3ヶ買って頂くと共に、マランツのPA01のモディファイをさせて頂く事になりました。

 アフターフォローで電話をしたのをきっかけに、Yさんとは急速に親密になりました。今後、2年間で日本中をくまなく、「最低でも1県でお一人は、お客様訪問をしてみたい」と私の抱負を述べますと、それなら是非一度来てステレオのセッティングをして欲しいという事になった次第です。

 12月の7日(土)の午後に訪問し、一泊させて頂いた後、翌日には隣町の大田原市のFさん宅にもお伺いする予定です。しかし、よりによってその日の夜から寒波がやって来て、関東の山沿いでは雪が降ると天気予報では言っております。私の車には全く冬対策が出来てなく、どうしたものか迷っておりましたが、連絡を密に取り現地の状況を確認した上で思い切って行く事に決心しました。

 首都高速には休憩所が無い

 木場インターから入ったのですが、浅草の手前あたりからかなりの渋滞に巻き込まれ車が進まなくなりました。その日は南千住あたりでポルシェが一人相撲の事故をしており、首都高を抜けるのに随分と時間が掛かってしまいました。

 東京首都外環道に入ると車はスムーズに流れるようになり、浦和北までの35キロほどが首都高速の目一杯の範囲で料金は一律の700円と非常に価値あるものです。それはいいのですが、それから20キロ先の蓮田サービスエリアまでの60キロ近くの間、まったく休憩する所が無いのは誰にとってもきつく、頂けるものではありません。ですから、先ほどの事故とて起こるべくして起こっているのでしょう。

 闇雲に高速道を新設するのではなく、こうした問題点の根本の構造に目を向け、素早く対策するのが行政の最たる仕事ではなかろうかと思います。それとは裏腹に、初めて走った東北道は宇都宮までの間は全線3車線で非常に運転しやすく、その上両脇、前方共に視界が良いときているから、不思議なものですが体感速度は30キロほど少なく感じるのでした。

 ”弱肉強食”

 そんな快適なドライビングですから、あっという間にYさんの別荘のある黒磯市に着きました。途中ハイオク97円の看板が目に入り、メーターは未だ1/3程しか減っていませんでしたが、ついつい引きずり込まれるように給油をしました。

 4レーンある給油スタンドはいずれも2〜3台車が並んでいます。恐ろしいほどの繁盛ぶりですが、気がつくとその周りには廃業したスタンドがまるで枯れた樹木のように数件ポツン、ポツンとあるのです。”フッ”と我に帰った私は、こうした私のような行動が”弱肉強食”をより助長させているのに気がつき、何か申し訳ないような気持ちになってしまいました。

 商売とは戦争 

 私のようなウンチクを述べることの出来る業種のものならイザ知らず、ガソリン販売はその性能には大きな違いを訴える事は出来にくく、健全経営の難しい商売だとはた目にも痛感させられるのでした。商売とは戦争と変わらないほど本当に厳しいものです。こうした何気ない日常の中にも”生者必滅”の厳しい現実が繰り返されています。

 宇宙ステーションを思わせる建物

 そこから10分ほどでYさんの別荘に着きました。冬の枯れた木立の隙間から右手前方に姿を現した宇宙ステーションを思わせる建物のそのいでたちは、何か不思議な時空間に包まれてしまったような気分です。


 ”夢と現”

 テラスまで出てこちらに向かって手を振って合図を送ってくれているYさんの姿が、タラップから降りてくる宇宙人のように私には目に映り、足の裏から感じる落ち葉のフワフワとしたものがなおさら、地に付かない私を”夢と現”の間を行き来させるのです。

 異次元空間

 4時前でしたから、冬の空らしくどんよりと鉛色をして雪もちらほらし始めて来ました。そのドームの中に案内されるとそこは異次元空間で、入ってすぐに感じたのは何とも言えぬ心地の良さです。この手の心地よさは初めて感じるものです。息子を連れての訪問ですが、その彼曰く、何か宇宙からパワーを貰っているような気分だと。

 分かりやすく言えばプラネタリュームに入ったと思ってもらえばいいでしょう。天井には幾つか設けた採光窓があり、その一部は電動で開くようになっている。晴れた日には星が凄くきれいに見えるそうです。


 105の三角形

 そんな話を伺っている中から建物の構造に興味を持ち、質問している内に不思議な因縁に出会う事になるのです。それは、”何と!驚くこと無かれ!”、「大小105ヶの三角形の組み合わせで構成」されていると言うのです。柱は1本も無く、その三角形の集まりが5角形にもなり、6角形にもなって、それぞれの面である壁で強度を確保しながら球体を成しているのです。

 私自身が”105”という数字に拘りを持って色々と音の研究をしているという事を、Yさんもすでによくご存知で、そこには何か不思議な縁(えにし)を感じていたというのです。その時点で二人はいっぺんに旧知の間柄のようになったのです。

 正確には5/8の球体になるそうで、根元の部分が少しすぼんでいる形をしています。それにしても、「どうして105になるのか?」、私は不思議で仕方ありません。今回のこの件でまた「宇宙の神秘なる数字105」に、より確信めいたものを直覚するのでした。


 こじんまり鳴っている

 その肝心なYさんのステレオですが、これだけ素晴らしい理想の空間であるにも関わらず全くもって音が響かず、スピーカーの周りでこじんまり鳴っているだけなのです。ですから、その状態ではホテルのロビーの天井にはめ込まれたBGMの為のスピーカーの機能と何ら変わらないのです。

 ”ステレオの整体”

 どんな音楽を鳴らそうとも、同じ鳴り方しかしないので、ある意味生活の一部としての環境として捕らえるならばこれはこれで悪くはありません。しかし、それにしてはお金が掛かり過ぎです。趣味としての音楽の醍醐味を感じたいならば、”ステレオの整体”の必要があります。

 そこで、これから私のクリニックの始まりです。色々なアクセサリーを多用しているのですが、その殆どの物は音楽のエネルギーを抑える方向の物ばかりです。スピーカーの下回りも、布を敷いた上に四角い木と金属で出来たベース、そしてBABYによるスパイク受けです。

 これでは振動の道筋がハッキリ決まらず、迷走を繰り返し、音のエネルギーは減衰しますので、布と四角いベースを一旦を外してみる事にします。すると如何でしょう?、力強くなり、音量が2割方アップしました。


 スピーカーを”素の状態”に戻してみる

 その後、スピーカーユニットの取り付け部に入れてある制振ワッシャを外し、なおかつ、そのネジの頭の部分に貼られてある貼付材も全部外し、とにかくスピーカーを元の姿に戻すことから始めます。そうして原点に返らなければ、”何が?”、”どのような?”影響をもたらしていたのか解りません。

 この2度目の試みでスピーカーが初めて響き始めたのが分ります。この時点で、この部屋の優れた特徴である筈の音の拡散効果の働きが証明出来たのです。キッチンに居ても、玄関口でも、階段の踊り場でも大分音楽が届いて来るようになりました。これで私の想像したイメージに近づこうとしているのが実感出来るようになって来ました。


 シッカリトした足場の構築

 この時点である程度の見通しがついてきます。振動の原点であるスピーカーの安定した足場の確保を得る為に、4個のスパイクに掛かる重さの均一化と水平をとります。これが出来ると安定した低音の上にきれいな高音が乗ってきますので、美しい楽器の音色に気持ちが惹かれていくようになるのです。


 重心セッティング

 次なる振動のテコ入れは、3分割されたカウンター状の棚板に置かれている4つの機材の問題です。振動のモーメントが各機材バラバラになっているのを、同じように揃えてやる為に上の棚板から機材を1つ外します。1部屋に1個といった割り当てで、コンポの両足に荷重が均一に掛かるように重心セッティングにしてやります。

 インシュレーターのポイント探し

 それと共にインシュレーターの音の良い安定したポイント探しも重要です。これらの効果も大変大きなもので音に力強さが出てくるのに相まって、濁りやにじみが取れてくるのが実感出来るようになります。ここまでが一応Yさん宅に於ける振動の問題点です。


 信号の流れの問題点

 この後、信号の流れの問題点に入ります。CDからイフェクターのAR-2000への”ピンケーブル”、その後PA01への”バランスケーブル”、そしてウィルソンベネッシュACT1へとつながるトリプルワイヤリング仕様の”スピーカーケーブル”の3種類の方向性をチェックします。



 ピンケーブルだけにおいては仮に方向が反対であるということが判明した場合でも、コレクトする事が出来るのですが、残りの2つの物はそれが出来ません。バイワイヤリング用に加工する場合にはその点で要注意です。XLRケーブルも入り口と出口で端子の構造が違う関係で1方向にしか結線出来ませんので、メーカーや作る人はよほど慎重でなければいけません。

 今回のケーブルは”ピン”、”XLR”、”スピーカーケーブル”の三つとも私の判断においては全て反対の結果となりました。すべてに於いて反対になったという事はいい加減に作られているのではなく、ある一定の考えの基に作られているという事だけは理解出来ますが、私が音を聞く限りにおいてはどうみても反対です。

 同じ銘柄のケーブルをお持ちの方は騙されたと思って反対につないで見てください。こうした現象に出くわす度に、同じ業界に身をおく者として何ともやり切れない気持ちになります。これだから一般の方がいい音を作り出すのが如何に難しいかが分ります。



 そのYさん宅におけるピンケーブルを逆結線した際の音の変化は著しいものがあり、歌手の音楽への感情移入がまったく別物のように好転しました。次にXLRケーブルの抵抗勢力がどれだけ邪魔をしているのか、CDプレーヤーからアンプにダイレクトにつないでみます。AR-2000とケーブルの両者がどのような形で音に影響してあったのかは今日の時点では分かりませんが、少なくともそれらを外してダイレクトにつないだ方が音が良い事だけは明らかでした。

 ピンケーブルを今までとは逆にした事によって30分後位にはそのリバウンド効果として中高音の部分できつさが目立つようになって来ました。それと上流の方から良くなってきた事によって最後のスピーカーケーブルのストレスが目立つようになって来たのと両方でしょう。


 ケーブルにケーブルを継ぎ足す、”アンセオリー”

 その抜けの悪さと暴れやストレスの発生の問題点をさらに理解していただく為に、ローゼンクランツ独特の音質改善グッズであるスピーカーアタッチメントの効果を聞いてもらいます。これもスピーカーケーブルの先端に継ぎ足す方法の物ですから、本来なら音抜けが悪くなって当然のはずです。

 今日のシステムはトリプルワイヤリングですから、全体域にバランスよく結線する事は出来ません。しかし、スピーカーのユニット構成を見ますと、ミッドレンジの受持ち帯域が広そうなので中域にだけそれを挿入してテストしてみることにします。

 すると如何でしょう?、片チャンネルだけ結線した状態でつないだ方のスピーカーからは、今まで聞こえなかった音楽情報が溢れるように出始め、もう片方のスピーカーでは音が出ていないのではないかと思うほどに変化したのです。これにはYさんは相当驚いたみたいです。急いでもう一つのスピーカーにも結線しますと今度はドーム全体に音が溢れんばかりに飽和するようになりました。

 ”イの1番に”注文した物は

 このようにして、”ある物はすべて出し尽くす”というローゼンクランツの手法をご覧頂いた訳です。お伺いした時点の元の音とは同じステレオとは思えないほどの変貌ぶりです。ただ、現時点の音は中音だけエネルギーが強すぎてアンバランスな状態ではあります。しかし、このアンバランスな状態でも、Yさんの出された結論は”イの1番に”スピーカーアタッチメントの注文だったのです。

 最後のバランス調整

 この後、スピーカーアタッチメントを外し元に戻すとかなり寂しくはなりますけど、エネルギーバランス的に揃いますから、これが今日の時点でのベストセッティングと言う事でしょう。この状態で時間と共に少しずつ良くなって行きます。こうして目出度くYさん宅のクリニックを無事終えました。


 別荘気分を満喫

 夕食は、Yさんが男料理を作って下さり、おいしく頂きました。また、団らんの後ジェット水流風呂をご馳走になり、旅の疲れをほぐしリラックス出来たところで床につきました。翌朝は爽やかな目覚めで、まだ暗い天窓からはきれいな星が見えておりました。


 それからしばらくして、Yさんが朝にふさわしい清々しい音楽をかけられたので、「お早う御座います」と言って1階に下りて行きました。至れり尽くせりで、那須の新鮮な空気をバックに健康的な朝食を頂き、本当に文字通り”有・り・難・い”貴重な体験をさせて頂きました。



 後日、M.Y様よりメールをいただきました。

 ----- Original Message -----
 From:M.Y
 To: info@rosenkranz-jp.com
 Sent: Friday, December 13, 2002 1:23 PM
 Subject: Re: ドーム体験有難う御座いました。

 貝崎様

 先日は、こちらこそ楽しいひと時を過ごさせていただき幸せでした。
 
 ふとした動機で,ドームハウスを作ることになって以来,この空間を生かすオーディオについて、いつも頭から離れませんでした。貝崎サウンドともいうべき朗々とした,伸びやかな音にめぐり合え,ドームも満足していると思います。
 
 そして何よりも,理由が明確で,一つ一つ結果を確かめながら次へ進むことは、励みになり、元気が出て、快感でした。
 
 早速送っていただいたPB-JRUを、自宅のSPスタンドの足に使ってみました。一呼吸ついたところで、からまった糸球が,ソーメン流しのようにスーとしてきたではありませんか。もちろんその前に,機器の場所や,コードも自分なりに確かめました。聴きとり位置からSPまでの距離ももちろん105の倍数にしましたよ。
 
 お正月までに、SPアタッチメントが届けばまったくうれしいです。時間を見つけて視聴室にも伺いたいと思っております。

 浄さんにもよろしくお伝えください。


 後日、M.Y様よりメールを頂きました。

カイザー東京試聴室       2003.1.4



 1時半の待ち合わせよりやや早め、10分前に東京駅八重洲口につくと、折りよく、見覚えのある小豆色のジャガーが滑り込んできたところだった。滑らかな走りのジャガーは正月で人気の少ない佃(つくだ)を通り、10数分で到着した。



 試聴室と聞くと街頭から出入り自由なショップを想像するが、ここはカイザーさんの自宅、それもマンションの6階の一室だ。その15畳ほどの一間が試聴室となっている。



 まず目に付くのが、ミラクルサウンド・スクリーンと名づけられた細めのひょうたんのようなすだれ。実は、上から下まで1本のメープルからくり抜かれており、背中あわせに貼り付けられているという。



 スピーカーは見た目はとてもすっきりと見える。ツウィター・スコーカー・ウーハーがスクリーンと同色で、背丈に近い高さにもかかわらず圧迫感がない。これらはサウンドステーションの上の中心部に置かれている。



 電源タップのナイアガラに接続されたケーブルは、線というより管といったほうがよい。いずれもローゼンクランツの最高級品。機器はもちろんローゼンクランツ製のラックに下から信号が流れるように置かれている。



 一番下にはCDプレーヤーCECのTL1だろうか。その上にCHORDのDAコンバーター、下から3番目は、ローゼンクランツ製のコントロールボックス、そして最後にパワーアンプ。



 ソファーも同系統のベージュでまとめられている。ソファーの後ろにもサウンドスクリーンが設置されている。ソファーの前にムートンのじゅうたんが敷いてあるだけで部屋には何の変哲もない。



 あいにくCDを持参していないので、カイザーさんに選曲はお任せ。ジャズのボーカルもの。音に高さがある。そして、貝崎サウンドらしいほとばしるようなとうとうとした張りがある。



 次の曲は、ワルツ・フォー・デビー。カフェの話し声が自然。話し声が耳障りでなく、雰囲気の一部となっている。トリオのお互いのつながりが心地よく、ゆったりとした気分にさせてくれる。



 ビバルディの四季の冒頭、音の分離がはっきりして互いの楽器の掛け合いが楽しい。音ではなく、音楽を聴いている。そして、おはこの三橋美智也。古城の朗々たる高音がよく響く。



 この時代は伴奏と声を同時に録っているから、伴奏の熱気も伝わってくる。旧い録音なのにかび臭いところがない。「ほんとうにいい音ですね」と浄さん。2曲つづけてリクエスト。ほーれてぇーの哀愁列車、そして達者でナ。この頃のキングレコードのボーカルはとってもいい。



 そして最後にバイオリン協奏曲。ちょっと題名は思い出せない。ソロの部分の迫真の演奏、弦のこすれ具合、松やにが飛び散るというのはこういうことなのか。それにも増して、ソロが休んだときのバイオリン合奏のピチカートなど湖に木の実が落ちたような軽やかな、そして静寂の間に音がすっくと立つ心地よさ。いつまで聴いていても聞き疲れのないひと時を過ごすことができた。



 そして、最大のお年玉。今朝までかかって、浄さんと一緒に仕上げたというスピーカーアタッチメント。わずか10cmにも満たないこの製品はまさに入魂の一品だ。



 カーザーさんも言う。このスピーカーアタッチメントはカイザーサウンドのすべてが凝縮して入っています。このサイズだからこの価格ですが、価格の何倍の価値があります。信号の流れに追加するのですから、マニアには抵抗があるはずです。



 ですからあまり宣伝していないのですが、理解していただける、実際に音を聞いて納得していただける方にしかお分けしていないんですよ。これはちょっと違いますよ、これを作るとき、父は何か気のようなものがないと仕事に取り掛からないみたいです、と浄さん。これには何か特別の愛称をつけてあげたい。



 那須の別荘でカイザーさんがこれを取り付けたとき、思わず椅子から滑り落ちそうになるくらいびっくりした。(お客様訪問参照)音が一挙に空間に満ち溢れ、謳いだし、包み込まれるような体験をした。



 値段も聞かず,その場で注文することなどめったにない体験だ。自宅に帰り、スピーカーアタッチメントを取り付けて数時間。今までのスピーカーが別物のようになり始めた。



 「これは一体何?」、CDをとっかえひっかえする気にもならない。今演奏している音楽を途中で切るのがもったいない、もっと聴きたいという気持ちにさせる。このスピーカーアタッチメントは、ものの見事にスピーカーを変身させてしまう「魔法の指」(Magic Finger)だ。


 那須でカイザー派・オーディオシステムで早く聴いてみたい。



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